燃料電池車(水素自動車)の不都合な真実

新型ミライが2020年12月9日に発売になった。
「世界を変える」、「究極のエコカー」など賞賛の記事が相次ぎ、水素社会の主役の一つとされている。しかしこれほど不都合な真実(An Inconvenient Truth)を抱えた製品はない。
 水素社会の重要性を否定するものなどいないし、水素を次世代のエネルギーの主役として捉えることにまったく異議はない。しかし車に水素を使うならきちんと説明してほしいことがある。
 それは水素を燃料電池車に給燃する時に必要な電気の量である。仮に水素ステーションに、給燃するための水素が準備されているとしよう。しかし水素をタンクに充填するには多量の電気が必要となる。ここでいっているエネルギーとは、水素を製造するのに必要なエネルギーや保管、輸送に必要なエネルギーを言っているのではない。そこに水素があって単にそれをタンクに充填するだけに必要な電気のことを言っている。
 仮に1kgの水素を車のタンクに給燃(充填)するには、およそ5KWhの電気が必要となる。電力会社とのヒアリングで確認したが、仮に新型ミライに5kgの水素を充填するためには35kWhの電気が必要となる。
 もしこの電気を電気自動車に使用すれば、それだけでBEV(電気自動車)を、280kmを走らせることができる。
もしろん燃料電池車は水素を使用する電気自動車であって、それ以外の何ものでもないが、あえて燃料電池車(FCV)とししてBEVと区別することは正しい。ホンダのクラリオを使ったオンサイトの実験では、水素の製造・充填1kgに60kWhが必要という結果も出ている。この1kgの製造・充填に必要な電気だけで、BEVなら483kmも走ることができる。もちろん水素の製造技術は大きく改善し、コストも飛躍的に改善するであろうが、一方で充填に使用する電気量の改善は、製造技術ほど進むとは考えにくい。現在の気体を液体にして使用するLPガス車の充填でも同じように電気を使っている。それならは、給燃(充填)に使う電気を、そのままBEVに使うべきだというのは、至極当然のことだ。
 もし現在の「水素自動車=究極のエコカー」という宣伝や案内を繰り返すなら、この点をを含めて、仮に改善されているならそれを含めてきちんと説明してほしい。
 BEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)のエネルギー効率は、この給燃(充填)段階だけで2.84倍の格差がある。
さらに消費者の視点から燃費を見てみると、仮に燃料電池車で1,000km走るコストと通常の電気自動車では2.5倍のコストを消費者は支払わなければならない。しかも水素の価格は1,000円/kgという破格の価格を前提にした場合である。
 一方で、FCV(燃料電池車)は、BEV(電気自動車)に比べ高度な技術とともに、製造に多数の部品が必要となり、それが自動車産業を支えるということを主張する経済学者や評論家もいる。これほどばかげた主張はない。このことでFCVはBEVと競争できるのか、消費者にたくさんの部品を使っているから良いクルマと主張できるのか。どちらが環境的にも経済的にも優れているかが購買を決める。そろそろプロパガンダではなく、説明するべきときでないか。

2016年10月01日