いわおのジャーナル

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Journal no. 55

南大阪の歩き方(2005年3月2日)

 地域の魅力を学生に再発見してもらう。そういうコンセプトで、NPO法人南大阪地域大学コンソーシアム(LINK)が2003年からやっている「南大阪の歩き方」事業に、私のゼミが2004年度に参加することになったのは、ほんのはずみからだった。コンソーシアムから大学に話が来て、大学が私に打診してきたのは、私が授業で環境問題や生物を扱っているということからなんとなくイメージとして関係ありそう、ということからだ。しかし私は基本的に地球規模の視野でしか環境問題を扱っていなかったし、地域の生物の調査ができるような素養もない。「考えてみますけど・・・」とワンクッションおいて、すぐに断りを入れるつもりだった。

 なんの用だったか、そのときちょうど地図を見ていたことが、その後の展開を変えることになった。「地域の魅力」というが、自分自身大学のある地域のことを知らないなぁ、と思いながら地図を眺めていると、池を表す大小さまざまな水色が、大学周辺にじつにたくさん点在していることに気づいた。ため池だ。これは使えるかも、と思った。といっても、生物調査などムリな話だ。学生はもとより、私自身も水辺の生物などほとんど見分けがつかない。それにその手の話はよそでもやっている。文系大学の学生でも扱えるものがないだろうか。

 この少し前から、私は大学の近所に少し目を向け始めていた。大学前の小さな森とか(LINK)、久保惣美術館裏の松尾川の親水公園(LINK)を見ていて、人と自然の触れ合い方について少し考え始めていた。そのことと、大学周辺に点在するため池のことを結びつけたら、なにかできないか。人とため池の関係のあり方について、分析と提案ができるかも。かなりの飛躍ではあったのだけど、そう考えて思い切ってゼミでとりあげて挑戦してみることにしたのだ。

 この思惑は最初からかなりの困難にぶつかった。私のゼミは4回生ゼミで、登録人数23人のうち4,5人しか来れない状態が春先からずっと続いた。趣旨と目標を理解してもらおうにも、毎回顔ぶれが変わるのでなかなか先に進まない。それでも、夏休みまでに2回、近所のため池を見て回ることができた。池の周りの状況によって、自然環境も人との関係性もかなり異なり、いくつかのパターンのため池に分かれるという感触が見えてきた。

 ところが、夏ごろになってコンソーシアム事務局から連絡があって、参加している自治体の希望する施設等を含めてほしいという。泉大津市の織編館(おりあむかん)という市立博物館(LINK)と、和泉市の池上曽根遺跡(LINK)を入れることになった。ここへきてようやく、先方はこれを観光地の掘り起こしに使いたいと考えていることがわかってきた。しかしそれでは、ため池と人との関係という視点では使い物にならないではないか。

 結局、織編館、池上曽根遺跡と、信太山のため池群をむすぶ、約5キロのハイキングコースを提案するということで形を整えることにした。卒論準備で忙しい中、12月に現地を歩いて写真などをそろえ、授業が全部終わった1月後半から発表会準備をしてもらった。後期に入ってもゼミに来る学生数は回復せず、ごく少数のゼミ生に過大な負担をかけてしまった。なんとか2月の中間発表会を無事に終え、ほっとひと息ついている。発表会の反応から見るに、見どころが離れすぎていて観光ルートとしては使えないだろう。そんなことは最初からわかっている。

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 それにしても、今回地元の見どころを探していろいろ調べてみて、自分も学生もいかに地域のことを知らないか痛感した。遺跡や神社・仏閣、博物館、公共施設など、小さな見どころはかなりたくさんあることに気づかされた。そうしたものに興味を惹かれるかといわれれば、それはとりたててそうでもないのだけれど、教員も学生もとりあえずひと通りのことは見て知っておいてもいいはずだ。とくに最近、大学教育においても座学だけでなく体験学習が求められていることを考えると、いろんな形で地域を見て回ることは重要だろう。むろん、小学校でも似たようなことをしている場合があるので、大学ならではの切り口が必要だが。

 そういうことを考えられたという点で、今回のこの事業への参加は私には非常に有益だった。今年度の参加チームはたった4チームだったが、教育面を強調してうまくアピールすれば、もっと参加者が増えてもおかしくはない。なにごともきっかけが大事だ。

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