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Journal no. 8

大学教員の夏休み(2000年8月28日)

 あー、夏休みが終わる。長いと思っていた夏休みがもう終わりかけている。この切なさや焦りは、学生時代とほとんどかわらない。この夏もあんまり何もできなかったなー。

 学校の先生は生徒と同じで夏休みや冬休み春休みがあるからいいよな、というのがたぶん世間の人たちの認識だと思う。とくに大学は休みの期間が長い。どうかすると5ヶ月ぐらいあるのじゃないか。1年の半分近く休めるなんて、とんでもない商売だな、と。とくに文科系の教員は授業のある日だけ出勤することにしている人が多いから、学期中でも週の半分は在宅、休みになればずっと在宅、ということもある。正体が判明するまでは、近所の人から「あの人、昼間からブラブラして、何やってる人かしら」なんてヒソヒソうわさ話されているかも知れない。

 もちろんこれは誤解だ。大学で講義をすることだけが大学教員の仕事ではない。大学教員の仕事は、教育と研究の二本立て。専門分野を持って、独自の研究をしてこそ大学教員なのだ。授業のある学期中は、講義のない日も次の講義の準備などしなければならないから、研究に集中できるのは夏休みや春休みだけだ。実際には春休みは入試やなんかでちょくちょく雑用が入るので、ほんとうに研究に打ち込めるのは夏休みが中心になる。夏「休み」といっても休暇じゃなくて、表に見えない仕事をする時期なのだ。家でブラブラしているように見えても、頭のなかではすごく深遠なことを考えているところかも知れない。

 大学教員はほとんどみんな「研究者」だ。採用の時に審査されるのは研究の内容と実績であって、教育歴ではない。昇任審査も研究内容を見る。教育と研究のどちらが自分の中で重要かと問われれば、研究と答える教員は多いだろう。むろん、だからといって講義をおろそかにしたりはしない。だけど、毎日でも研究に集中できる夏休みがうれしいのはたしかだ。研究を充実させてこそ、その成果を教育に還元できる、というわけだ。

 じゃ、あんたはいったいどんなすばらしい研究をこの夏やったのだ、と問われると、答えにつまってしまう。じつはあんまりなにもしなかった。いろいろ予定していたことの三分の一もできなかった。夏休み前に立てた「夏休みの計画」通りにことが進まないで、なにもできないうちに休みが終わりに近づいてあわてふためくのは、小学生の頃からあんまりかわっていないのだった。

 いやもちろんこれは私に限ってのこと。他の先生方はきっと深遠なる思索をめぐらしておおいなる答えを得られたに違いないから、一度たずねてみるといいだろう。

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