問1:日本人成人男性の平均身長は1950年の161.8cmから2000年には170.8cmまで伸びた。この身長の伸びが自然選択による進化の結果ではないということを論理的に示したい。以下の解説文の空欄を埋めるべき言葉を対応する回答欄に記せ。(各5点)
ここでは、自然選択によって身長が伸びたと仮定するときわめて不自然なことが1950-2000年に起こっていたと考えざるを得なくなることを示すことによって、進化ではないと結論したい。
自然選択によって身長が伸びたと仮定するならば、まず次の3条件が満たされていなければならない。第1に集団中に身長の[@ばらつき]があった、第2に身長は[A遺伝]する、第3に身長と[B適応度]の間に相関があったということである。
第1の条件が満たされていたことは検証するまでもなくまちがいない。また第2の条件については、データとしての確証はないが一般的に両親とも長身の家庭には長身の子が産まれやすいという認識があることから判断して、身長がAすることに疑いはないだろう。
第3の条件が問題である。身長とBの間に相関があったということは、身長の異なる個体のあいだで[C子]を残す確率が違っていたということにほかならない。Bは(繁殖年令までの[D生存率])×(残したCの数)で表されるから、背の高い男性は低い男性より若年期のDが高かったか、あるいは背の高い男性は低い男性よりたくさんのCを持ったということになる。
きちんととられたデータがあるわけではないが、そのようなことはありえないと断言していいだろう。人の生死やCの数が身長と関係していると考えるのはいかにも不自然である。しかし、もし1950-2000年の身長の伸びが進化の結果だと仮定すれば、身長とBの間に相関があったと結論せざるを得なくなる。したがって、この身長の伸びは自然選択による進化ではなく、なにか他の要因によるものと考えるのが妥当である。
【コメント】長い問題のわりに,答えるべきはごく基本的なこと。
問2:以下の空欄を埋める言葉を対応する右の回答欄に記せ。(各5点)
シアノバクテリアは[E太陽]のエネルギーを使って[F二酸化炭素]から有機物を合成する能力をもったバクテリアである。約20億年前にこの生物が大量発生したことで、それまでほとんどなかった[G酸素]が大気中にあふれ、他の生物にとっても環境が激変した。Gを嫌う生物が激減し、代わりにGを有機物の分解に使う生物が誕生した。現存の生物において、Gを使って有機物からエネルギーを取り出す役割を担う細胞内小器官を[Hミトコンドリア]というが、これはもともとその能力を獲得した細菌が他の細胞に共生したものである。なお、大量に発生したGは成層圏で[Iオゾン層]を形成した。これにより有害な[J紫外線]がさえぎられ、その後生物が陸上進出するお膳立てをしたのである。そうした点でも、シアノバクテリアの登場は地球生命の進化に多大な影響を与えたといえる。
【コメント】これも基本的なことだけ。
問3:地球上では、おそらくただ一度の生命の誕生からすべての生物が進化したと考えられているが、その根拠はDNAが遺伝情報を伝える仕組みにある。なぜ生命の誕生がただ一度と言えるのか説明せよ。(10点)
DNAの4種の塩基ATGCの3つのならびが「コドン」としてひとつのアミノ酸に対応し、そのアミノ酸をたくさんつなげて作られるタンパク質が生命活動の基本を形作るのだが、64通りあるコドンのどれがどのアミノ酸に対応しているかは、ほとんどすべての生物で同一となっている。偶然決まったと考えられるコドンとアミノ酸の対応が、二度まったく同じになることは考えにくく、ほとんどすべての生物が同じ暗号を使っているのは、すなわちすべての生物がただ一度誕生した同一の祖先から進化したからだと考えるのが妥当である。
【コメント】正解率は低かった。授業であまり強調していなかったかな、と思って、復習祭のときに意識して話したのだけどな。
問4:有性生殖するある生物が3つのグループを作っている。グループAは、メス9匹オス1匹、グループBはメス5匹オス5匹、グループCはメス1匹オス9匹からなる。交尾はすべてグループ内で行われ、メスはすべて1度だけ交尾して2匹の子を産むとし、オスは何度でも交尾できるものとする。(15点)
下線部は試験中に口頭で追加した。
(1)もっとも多く次世代の子を作れるのはどのグループか。
グループ[A]理由:グループ内にメスが多い方がたくさん子を作れる。
(2)オス1個体平均で最も多くの子に遺伝子を伝えるのはどのグループか。
グループ[A]理由:1匹のオスが9匹のメスとそれぞれ交尾してすべてのメスに自分の子を産ませることができる。
(3)この例の比較から言えることはなにか。
(1)の答から、グループの利益を考えれば性比はメスに偏っている方がいいとわかる。しかし(2)より、グループの性比がメスに偏っているとオスの立場が有利になるとわかる。するとオスを産む方が有利になるので、オスの割合が次第に増えることになる。結果としてオスが増えて性比の偏りは解消されてしまうだろう。つまり、個体の利益が追求される結果、進化はオスとメスの比率を1:1にするのである。
【コメント】性比の進化の授業でやったことそのものの再現で、性の進化で一番おもしろい箇所だと思っていたのだけど、期待したような答えを書いた人は実に少なかった。(3)の問い方がかなりおおざっぱすぎるのは確かだが、そこは授業を思い出してちゃんと察してほしかった。
問5:K君の母親の兄にあたるおじさんは、K君に対し「おまえの鼻はオレの鼻によく似ている」といつも言う。その鼻の特徴が1つの遺伝子で決まっているとして、K君とおじさんが、鼻に関する同じ遺伝子を共有している確率はいくらか。またおじさんに子どもがいた場合、その子がおじさんと鼻の遺伝子を共有している確率はいくらか。(10点)
K君とおじさんの血縁度は1/4、おじさんとその子の血縁度は1/2。
【コメント】単純に考えてもらえばいいのです。なんでこんな簡単な問題出したんだっけ、とあとでふしぎに思った。
問6:ある生物が、元々生息する場所から遠く離れた場所へ人間によって連れて行かれたとき、外来種として移入先で爆発的に増殖して問題を引き起こすことがある。なぜ、もとの生息地では普通種だった生物が、移入先で大増殖することがあるのか,説明せよ。また、外来種が他の土着の生物に対して引き起こす問題を3つ挙げよ。(10点)
【回答例】移入先では天敵がおらず、またエサとなる生物や競合するはずの生物も無防備であるため、条件がよければどんどん増殖できるから。土着の生物に対して、捕食する、競合する、交雑する、病気や寄生者を伝搬する(このうち3つ)、といった問題を引き起こす。
【コメント】増殖の理由2つ各2点、問題3つ各2点。増殖の理由として、天敵の欠如は多くの人が書いていたが、エサになる生物の無防備についてはあまり書いていなかった。