2012年秋期 環境問題概論
期末試験 問題と解答


I. 以下の文章の内容は正しいか間違っているか。間違っているなら何がどう間違いで正しくはどうであるか、説明せよ。(各10点)

(1) 地球温暖化による海面上昇は、北極・南極・グリーンランドの氷の融解、高山の氷河の融解、熱による海水の膨張が原因である。このうちこれまでの海面上昇にもっとも寄与しているのはグリーンランドの氷の融解である。

北極の氷の融解は原因ではない。最も寄与しているのは熱による海水の膨張である。

(2) 現在進行中の地球温暖化は、かつて地球が経験したことのないほど気温の高い状況を作り出しかねないため、何としても回避しなければならない。

地球はこれより気温の高い状況も経験したことがある。ただし人の文明社会にとっては経験したことのない状況である。

【コメント】「地球は昔から温暖化・寒冷化を繰り返している」なら5点。

(3) 火力発電なら、燃料が石油でも石炭でも天然ガスでも排出するCO2量は同じである。

同じではない。石炭>石油>天然ガスの順で異なる。

【コメント】「同じでない」だけなら5点。

(4) 原発の出力は1基およそ100万kW。家庭用の太陽光発電は1基3-5kWだから、5kWのものを20万戸の屋根に設置できれば、原発1基分の電力を置き換えられる。

置き換えられない。原発は発電し始めればその出力で24時間発電できるが、太陽光は1日数時間しか発電しないので、さらにはるかに多くの台数が必要となる。

【コメント】「天候により不安定だからダメ」でも10点。

(5) 世界の食糧不足を考えると、私たちは食生活を改善すべきである。穀類の消費を減らし、肉をより多く食べるべきである。

肉となる家畜の飼育には穀物飼料が必要であり、穀物をそのまま食べるよりずっと多くの穀物を必要とするので、肉を食べる量は減らすべきである。

II. 環境中にごく低い濃度で拡散する化学物質が、生物体内に入り、食物連鎖を経て上位の生物から高い濃度で検出される現象を[ C ]という。

(a) 上の文の[ C ]に入る言葉を記せ。(5点)  C [生物濃縮]

(b)食物連鎖の最上位の生物体内に入った化学物質は、そのあとどうなる? (10点)

その生物が死亡するとその遺体を分解する微生物の細胞内に入り、再び食物連鎖を通じて生物濃縮を繰り返すことになる。

【コメント】「害をなす」「蓄積される」は3点。

III. 燃料を燃やして発電しつつ、その排熱で温水を作って利用する、というふうに、一つのエネルギー源から2つ以上の二次エネルギーを得ることを[ A ]という。

(a) 上の文の[ A ]に入る言葉を記せ。(5点)  A [コジェネレーション]

(b) ドイツなどでは、住宅地の近くに小型発電所を建設し、電気と温水を住宅地に供給するといったことがよくおこなわれているが、日本ではあまり見られない。日本では実現しにくい理由を説明せよ。(10点)

[回答例]日本では温水を各戸で作る仕組みになっており、発電所で作った温水を供給するためのインフラがないため。

【コメント】「土地がない」「住民が嫌がる」は3点、「近くにしか供給できない」は5点、「電力会社が独占している」は8点。

IV. リサイクルすることによって環境負荷が低減されるかどうかは、リサイクルする場合としない場合を[ B ]という手法で総合的に比較しないと判断はできない。

(a) 上の文の[ B ]に入る言葉を記せ。(5点)  B [ライフサイクルアセスメント(LCA)]

(b) 10トンのペットボトルをリサイクルして繊維にして7トンのカーペットに再生する場合、リサイクルしない場合と比べて環境負荷の何がどの程度の量削減されるか。ただし、リサイクルしない場合ペットボトルは使用後焼却し、カーペットは新たな原油から生産する。どちらの場合もカーペットは一定期間使用後焼却するものとする。(10点)

[回答例]10トンのペットボトルから7トンのカーペットができるので、差の3トンはロスとして廃棄されると考える。するとリサイクルする場合、廃棄物は7トンのカーペットと3トンのロスで合計10トン、必要なものはペットボトル10トン分の原油と、リサイクルする工程に要するエネルギー。一方リサイクルしない場合、10トンのペットボトルと7トンのカーペットが廃棄されるので合計17トン、原料としてペットボトル10トン分とカーペット7トン分の原油。したがって、リサイクルすることで、廃棄物は7トン削減され、資源はカーペット7トン分の原油からリサイクル工程に必要なエネルギーを差し引いた量が節約されることになる。

【コメント】計算してもらうのが目的ではないので、厳密に数字が合っていなくても廃棄物と原油の両面についてそれなりに検討されていれば点を与えた。どちらか一方しか考えていなければ5点。ここではリサイクル工程に要するエネルギーは不明なので資源が明白に節約されると断言できないが、廃棄物が削減されることはわかるはずである。

V. 弁当製造会社の多くは、合成保存料を一切使用していないことを売りにしている。

(a) この行動は、予防原則と予測原則、どちらに該当するか。(4点)  [予防原則]

(b)保存料を排除したことで、だれにとってどのようなメリットがあったのか、そのことでだれにとってどのようなデメリット(リスク)が発生したか。考えられることをそれぞれ2つずつ答えよ。(16点)

[回答例]メリットとしては、消費者は合成保存料の健康リスクを心配しなくていい。製造・販売者は無添加を売りにして販売を伸ばす。デメリットとしては、消費者・販売者にとって食中毒リスクが増加。製造・販売者・社会にとって品質維持のため余分なエネルギーや資源が使用され環境負荷が増加。また販売者・社会にとって期限切れ商品の廃棄によりゴミの増加、など。

【コメント】それぞれ4点。だれにとって、がないと3点。金銭的なコストもいいが、社会的・環境的なコストを考えてほしかった。

■■珍答・誤字集■■

I(5)への回答「肉の元となる牛や豚が絶滅するので肉を食べる量を減らすべきである

同様の回答が複数あった。ふだんから野生の動物の肉を食べているつもりなのだろうか。

IIへの回答「化学物質が他の生物に感染するのを防ぐためにDDTが発明された。

もはやどうコメントしていいかわからない。


人明が開明してから(←なんだかわからない)、肥肪に肥えられる(脂肪に蓄えられる)、天燃ガス(天然ガス)、都街(都会)、親頼(信頼)、安信(安心)、地振(地震)、余欲(余裕)、商品が生れる(売れる)


学生の間違いを笑いものにするな、という指摘が以前あったのだが、こういう間違いは人に笑われて恥ずかしく思うべきである。恥ずかしいと思わなければ正しい知識(当然身につけていて当たり前のレベルの)に修正するチャンスを失うことになる。だからみんなで笑ってやろう。


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2012. 2. 15.