この文章は、2007年春の新入生向けに作成された社会学部社会学科のパンフレットに掲載された文章を整形し直したものです。


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巖 圭介(いわおけいすけ)

社会学部社会学科 准教授
研究室:アンデレ館716号室


Q1: 「今年度はどのような授業をするか?」

 講義科目は、環境問題概論と自然科学(生物学I)の2科目です。「環境問題概論」は私の主担当科目で、現在の人間社会が直面している問題の代表としてゴミ問題・化学物質汚染・オゾン層破壊・酸性雨・地球温暖化・食糧問題などを取りあげる、週2回4単位の科目です。どのような問題があるかということを知ってもらうとともに、その解決のために社会はどのように動いているか、そして私たちにはなにができるかということを考えてもらいたいと思っています。実際に自分の生活を見直したり、問題解決のための取り組みを提案してもらうことなども考えています。ただ座って話を聞いているだけではなくて、なにか実際に行動を起こすきっかけになれたらといろいろ工夫しています。

 「自然科学(生物学I)」は、サブタイトル通り生物学の講義です。ただし、高校までの生物の繰り返しではなく、「進化」の話を中心にしています。DNAから生態系まで、数限りない生き物のさまざまな側面のそのすべてをつらぬくひとつの事実、それはすべてが37億年の生命の進化の中で形作られた歴史の産物であるということです。進化という現象を抜きにして生物のいかなる側面も語ることはできません。もちろん人間も生物であり、その行動、形態、心理などさまざまな側面は、進化の産物として理解すべきものです。にもかかわらず、現在の高校までの理科教育では進化をまともに扱うことが少なく、進化を正しく理解している人はあまり多くないのが現状です。この授業では、進化とそのメカニズムの正しい理解を目標とし、進化を軸にして生命現象のいくつかの重要な側面について解説します。遺伝子操作やクローン技術、生物保全など生物学に関するさまざまなことが社会的話題になる時代です。理科系でなくても、むしろ文科系だからこそ、生物学の基本を知っておくべきだと思います。文科系大学である本学における数少ない理科系教員として、私は科学と社会の関わりの部分をクローズアップしていきたいと思っています。理科系志望だった人はもちろん、文科系の人にも興味を持って学んでもらえるような授業をしていくつもりです。

Q2: 「現在どのような研究に取り組んでいるか?」

 私の専門はもともと、昆虫の生態とその進化のメカニズムを明らかにすることです。長年興味を持って調べているのは、なぜ昆虫はそれぞれ決まった種類のエサしか食べないのか、という問題です。いろいろなんでも食べられた方がエサの量も多く見つけやすくて絶対有利なのに、なぜ限られた範囲のエサしか食べようとしないのか。たとえばなぜモンシロチョウの幼虫はキャベツ(とその親戚)しか食べないのか。その進化のメカニズムを明らかにしたい。かつては、何千匹ものアオムシを飼育して重さを測ったり解剖したり、畑一面にアサガオを育てて虫に食われた葉の面積を測ったりしていました。本学では実験設備がないので、今は他大学の研究者と共同でコンピュータシミュレーションや数理モデルを使って研究しています。

 純粋に科学的な研究の他に、環境問題への取り組みをどうやったらうまく多くの人々に広められるかということも考えています。研究というより教育の一環と言えますが、ただ知識を広めるのではなく、意識を持った人たちが楽しく取り組めてそれが環境にプラスになるような、そんな仕組みができればと思うのです。たとえば、大勢の市民が少しずつ出資して地域に自然エネルギー発電所をつくるといったような取り組みは、多くの人の善意を活用できてしかもビジネスとしても成立するすぐれたものだと考えます。大学という教育の場では、座学だけでなく実際の問題の現場を体験したい学生を、地域が抱えるさまざまな問題と結びつけることで、双方に得るもののある幸せな出会いを創り出すことができるのではないかと考えています。森林ボランティアなど地元の環境活動に少しずつ参加しながら、どうやって学生を巻き込んでいくか、その方法を模索中です。

Q3: 「社会学科の学生としてどのような本を読んだらいいか?」

 どんな分野でもそうですが、情報源が限られているとものの見方が偏るおそれがあります。とくに環境問題については新聞も本もインターネットも無数に情報がありますが、正しい見方を得るには結局いろいろな所の情報を照らし合わせ整合性を確認し、自分の頭で判断せざるを得ません。したがって、個人が書いた本を1,2冊読んでわかったような気になってはいけないのですが、とりあえず以下の本を推薦します。

 世界の環境問題の深刻さを知るには、石弘之「地球環境報告II」(岩波新書, 1998)が入り口としておすすめ。メディアで日々報じられる身近な問題とはちがった、世界の状況に目を向けるきっかけになります。一方、日々のニュースを読み解く力をつけるには、安井至「市民のための環境学入門」(丸善ライブラリー, 1998)が最適。同名のホームページでは今も日々の出来事に安井氏がわかりやすい解説を加えています。自然生態系の精妙さとその危機を知るには、鷲谷いづみ「生態系を蘇らせる」(NHKブックス, 2001)と加藤真「日本の渚−失われゆく海辺の自然−」(岩波新書, 1999)をどうぞ。とくに加藤氏の本は、日本が失ってしまった海辺の風景がいかに豊かな生態系でかつ人にとって有益な存在だったかがよくわかる名著です。問題の大きさと社会の反応の鈍さに絶望しそうになったら、山岸俊男「社会的ジレンマ −「環境破壊」から「いじめ」まで−」(PHP研究所, 2000)を読むと少し元気が出るかも。


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2007. 4. 2.